「景麒。服、脱いでくれない?」

 

 

うららかな昼の穏やかな午後。

相も変わらず突然言い出した彼らの主上のオコトバに。

ぴきーーーん。

と、その部屋にいた全員が固まった。

「……………………」

「……………………」

「……………………」

「あの、主上……?」

最初に凍結から立ち直ったのは、流石と言うか当たり前と言うか、

やっぱりすごいぞ、の浩瀚だった。

少なくとも浮かんでいる微笑みに引き攣りはなく、ごく穏やかで自然なものだった。

「突然、何事です。台輔が困惑されておりますよ」

陽子が麒麟の方に目をやると、無表情な綺麗な顔立ちはそのままに、凍結していて

意識不明になっている。

自分でそうしておきながら、陽子はこれしきのことで軟弱な。と舌打ちした。

「いや、私は胎果だから、こちらの里木のことがよく分からないんだ」

陽子は頼りがいのある冢宰に苦く微笑んでみせて、答えた。

「里木から生まれているこちらの人は、おへそがあるんだろうか?」

「へそ、ですか?」

それでようやく遠甫、虎嘯の二人が解凍した。

それなら。と、虎嘯はにこにこと笑って、頷いた。

「へそならありますよ。なくちゃ、里木の栄養が取れない」

「栄養」

陽子は鸚鵡返しに問い返した。

「里木の中は、人のもとになる部分と、その周りの栄養とに分かれておると

いわれておる」

先生癖の抜けない遠甫が可笑しそうに教えてくれる。

陽子は柿の種を彷彿とした。確か胚芽と胚といったか。あんな感じなのだろうか。

「おへそはあるんですね。

それじゃ、麒麟や半獣達の、獣の方の姿でもおへそがあるんですか?」

「……………………」

「……………………」

「……………………」

長い沈黙があった。

全員の視線が、自然と麒麟の方に向けられる。

解凍がようやく溶けた景麒に、全員の無言の圧迫が襲い掛かった。

彼以外の、誰もそれに答え様がなかったためだったが。

「……主上はまだ勉強不足でしょうが、こちらでは高貴な方に肌を見せるのは

とても失礼なことなのです。

私は主上に肌をお見せするような、そんな無礼な真似は出来ません」

眉間に稲妻を走らせたまま、景麒は応じた。

好奇心で転変させられてたまるか、というオーラが全身から発せられている。

しかし、今までこれが日常茶飯事だった陽子は、もう景麒の溜息も眉間の縦皺も

怖くはない。

「麒麟の姿になればいいだけだろう。麒麟で服を着ているお前なんか、見たことないぞ」

「………………」

景麒と陽子は睨みあう。

周りの三人は止める気もないようで、のほほんと生暖かい目で二人を見守った。

これまた日常茶飯事のことだから、冢宰以下、みんな慣れっこなのだ。

果たして、無限とも思えたにらめっこの末に。

先に折れたのは、陽子の方だった。

「……分かった。いいだろう」

押し殺した声が響くや否や、陽子はがばっと立ち上がって景麒を一瞥した。

「いいもん。桓魋に見せてもらうから。雁国に行けば楽俊がお前よりずっと丁寧に

色々教えてくれるだろうし……」

ずっと丁寧に。

色々………。

色々って何ですか、という微笑ましい突っ込みが景麒の脳裏を直撃した。

桓魋。楽俊。

無敵の癒し系半獣コンビである。景麒よりもずっと陽子に信頼されている半獣達。

景麒は頭を抱える。

結論は、やはり一つ。

桓魋はともかく、あのネズミだけにはこれ以上主上の寵愛を奪われては堪らない…。

「……おまち下さい、主上」

内腑から搾り出すように、景麒は陽子の背に声をかけた。

陽子はわざと、ゆっくり振り返ってみせる。

「転変してまいりますから、ここでお待ちを………」

黒々としたタタリ神のような周囲の空気を伴って、景麒はその場を一旦離れる。

残された三人の官員達は期せずして、同じ事を思った。

 

「へそがあるかどうか言えばいいだけで、見せなくてもいいんじゃあ…………?」(笑)

 

しかし生真面目な麒麟は、その場を出て行って、陽子はにやりと笑ったのだった。

 

 

 

 

 

後日、雁国主従にも散々からかわれ、傷心の麒麟は胎果のことが嫌いになりかけた

らしい。可愛らしい黒麒がいなかったら、彼は胎果嫌いの麒麟として有名になったやも

しれない。

 

とにかく。

 

「へその緒ってあるの?」

「双子っているの?」

「生まれた後の里果の殻ってどうなるの?」

などなど、赤ちゃんはどこから来るのレベルな質問が主上から飛び出した時は、

官員達はみんな景麒に後を託して逃走するようになった、という。

 

 

 

 

 

 

おわる?……(笑)

2001.11.17.


続、景麒VS楽俊ですv 景麒FANの皆さんはまたまた本当にごめんなさ〜〜い!(土下座)
今まで景麒さんは出てきても台詞の一つもなかったので、ここらでいっちょ書こう、と思いまして。
すみません。楽俊スキーな緋魚の家では景麒さんの扱いが粗雑なんです〜。(汗)
でもって、ずっと不思議だったネタ。里木人にへそはあるのか!?そして半獣は!?
緋魚よく知らないんですが、わんこさんやねずみにおへそってあるんですか?
半獣って麒麟と同じなら、獣の姿で生まれてくるんですよねぇ?じゃあ、半獣の里果と
人間の里果って、もしかして違いがあったりするんでは……?
誰か教えて〜〜〜〜〜!!(^^;

実は、「振幅」以外にはこの「秘密」しか景麒の台詞がないのだという事実に
今初めて気付きました。(爆笑) ヤバイ・・・これは景麒FANの方にカミソリ送られてきても仕方ないよ・・・。(滝汗)

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