翡翠


 

「楽俊は、緑色の服をよく着てるね」

ある日突然言われて驚いた。

「えっと……そうですか?」

「うん。とっても良く似合うけど。

気付いてなかったんだ? 何か理由があるのかと思ってたよ」

歴史の講義を受け持つ彼女は、入学した当初から親しくしてくれる老師の一人である。

「いえ、別に。理由なんてないです」

楽俊はふるふると首を振った。

そもそも人型になるのも少ないから、服だって僅かしか持っていない。

「そうか、そう言われてみると箪笥の中、いつも緑っぽいかも………」

楽俊が言うと、彼女は大きく口を開けて笑った。

「楽俊、最近女の子達の服の色が緑色が多いのに気付いているかい?

皆、君が緑が好きなんだって思っているんだよ」

「………………え、あの……」

わたわたと狼狽える楽俊に、彼女はちょっと微笑んでみせた。

「緑は生命を表す色だそうだ。実際、楽俊、君は夜より昼が似合う。」

得難い師の言葉に、楽俊は意図を図りかねて目を瞬かせた。

「早く官吏になるのもいいけれど、もっともっと自分の人生を楽しむがいいよ。

色々と苦労も悩みもあるだろうし、そのすべてを私が理解することなんて出来ないけれど。

楽しもうと思えば、世の中はそんなに悪いものじゃないさ」

楽俊はつと目を伏せ、それから神妙に頷いた。

「有難う御座います」

「何のお礼? 私は何もしてないよ」

軽く笑う強い彼女を見ながら、楽俊も淡く微笑んだ。

緑は、生命の色、か。

おそらくそれは間違いない。

緩慢な死に繋がれていた自分を救い出したのは、

かの愛しい少女の瞳。

あの瞳の中にいつまでも映っていたかったから。

大学に入ったのも、官吏になりたいのも。すべてそのために………。



* * *




いとおしいその翡翠の瞳を思い浮かべ。


今日も同じ色の服を選ぶ。







fin.

 

2002.3.17.


先日三ノ宮の中華街に行ったら、楽俊に似合いそうな萌黄色のアオザイを見つけまして。
そういえば楽俊って緑の服をよく着てるよね、うちではともかく、他の方の描いた楽俊も
青や緑の服が多いわ、って思ったのです。
よく考えれば陽子の色との兼ね合いや全体の構成からしてそうなるんでしょうけども。(笑)
まぁそんなわけで、楽俊の服が緑色の考証をしてみたのでした。(^^)
ちなみに楽俊が緑色の服を良く着ているという記述は原作にはありません。念のため。(^^;

 

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