「おいらが乙女座だっていうのはまぁ、納得したけど、陽子は何座なんだ?」



「私は、牡牛座のA型だ」









楽俊の問いに、陽子は笑って一冊の本を取り出した。

薄い本は見覚えのある薄さと大きさで、前回のものと同じ種類のものだと分かる。

「あ、じゃあ読ませてくれねぇか? おいらも蓬莱の文字を習い始めたんだ。

壁老師に教えて頂いているんだが、あちらの言語も結構面白いな」

楽俊は微笑んだ。

先日、陽子がこちらの世界の文字が分からないと愚痴をこぼした時、それならば、と

楽俊は陽子のために辞書を作ることを約束してくれたのだ。

その約束を、楽俊は誠実に実行に移している。

「うん。じゃあ分からないところがあったら言ってね」

陽子は言ったが、差し出された本を受け取った楽俊は、短期間しか学んでいないとは

思えないほど流暢に読み始めた。


『牡牛座は安全確実なコースを選びます。自分が正しいと信じるものをしっかり守り、

けっして嘘やごまかしはしません。自然のリズムを基調としたスローペースを好み、

思慮深く、慎重で、どんな行動に出るときも、どんな結論を出すときも、人一倍

時間をかけて熟考します。しかも、いったん決意すれば、固い信念をもち、それを

変更することはまずないでしょう。
』 」


楽俊は陽子に笑みを向けた。

「良く当たってるじゃねぇか」

言われて、陽子は肩をすくめてみせた。

「皆からもそう言われた。思慮深いとか、慎重とか、私は自分のことをそう思っていないけど」

「そうか? おいらは王になれって薦めた時や、初勅の時のことを思い出すけどな」

楽俊の含み笑いに、そうだったかな、と陽子は苦笑する。

「ああ、物事は両面があるからなぁ。あ、ほら。ここにもちゃんとのってる。


『牡牛座の特性は、受動的、すなわち消極性ということです。おおらかで、はにかみや

愛嬌があって、いつも笑みをうまべ従順です。しかし、これがマイナスに作用すると

自己主張のできない、のろまな臆病者を酷評されるでしょう。

次に、スローペースを好む牡牛座は、とても我慢強く、持久力、抵抗力は抜群です。

なにごとにも時間をかけてゆっくりすすんだほうが成果は大きくなるし、短期戦よち長期戦の

ほうが運もツキも大きくなります。

ところが、あまりねばりすぎると、持久力はがんこさに通じ、抵抗力はがむしゃらなわがままに

すりかわってしまうでしょう。責任感は強いが、融通性に欠けるので、どうもやりにくいと

思われることもしばしばです。

冷静沈着で堅忍不抜の精神の持ち主であるのは確かですが、その美点は行き過ぎたとき、

あるいはそれが裏目に出たときに、あなたほど頑固になり、自説に固執し、他人の話を

聞こうとしなくなる人は他にいません。利害損失に関した問題であるほど、もはや牡牛座は

他人の立場にたって考えてみるような心の余裕や柔軟性などは雲散霧消してしまいます。

攻撃されればされるほど強情になり、さきほどまでの温和さ、沈着さはどこへ行ったのかと

あきれるほど怒りだしたりします。そして、普段怒らないだけに、一度怒りだすと自分でも

歯止めがきかなくなり、ついには暴力沙汰をおこして地位や名誉をふいにしてしまう…という


ケースさえあります』 ………懐かしいなぁ。この辺りは巧で旅をしていた頃を思い出すよな」


「う………………」

陽子は思わず赤面した。

「…………楽俊には、本当に迷惑を掛けたと思ってる…ごめん」

かつて荒んでいたころの自分を思い出せば、絶叫してのたうちまわりたくなる。

今の自分があるのも、あの頃の苦しみがあったからこそだけれど、出来得る事ならば

楽俊の記憶からあの頃の自分を消してしまって、なかったことにして欲しいとも思う。

初めて出会った時の自分が、楽俊の記憶の中で汚れきって妖魔の血にまみれ、

ひどい顔と姿をしているのかと思うと、王である前に一人の恋する少女としては、

あまりにも情けなかった。

「迷惑だなんてちっとも思わなかったけどな。まぁ、ちょっと心配ではあったかな」

楽俊はさらりと笑って受け流した。

「どこか直線的というか、走り出したら止まらない印象があったからなぁ。

義理人情にあついところだとか、信用を積み重ねていくタイプだとか、

この本、本当によく当たってるよ。陽子は急かされて、自分のペースを乱されるのは

苦手なんだろうけど、コツコツマイペースに進める時はどんなに辛いことでも

ちゃんとやっていくもんな」

楽俊は陽子の頭を撫でた。

子供を褒めるような仕種だったけれど、存外、それが気持ちよくて陽子は目を細めた。

そんな陽子を見守り、楽俊は優しく笑う。

楽俊の中に、いつも綺麗な自分の姿を残したいと陽子は切実に思う。

楽俊はいつも見つめてくれているから、人より余計にそう思うのだ。

陽子を撫でながら楽俊は頁をめくった。


『牡牛座は、はっきりいってセックス大好き人間。見かけが上品なため、セックス好きの

イメージはありませんが、昼は天使のように、夜は娼婦のように、ふたつの顔を使い分ける

ことが出来る人です。それは、人間の本能的欲望が強い星座だからです。

しかし、肉体的な欲求は強くても、昼間からいやらしい話をするような”はしたない”まねは

しません。また、好き、抱かれたいと思っても、出会ったその日にすぐに体をゆるしてしまう

ようなこともありません。かなり保守的に順序を踏まないと気がすまないようです。

最初のデートは、お茶を飲んで食事をして、「さようなら」で終わります。そして、何度目かの

デートで公園を散歩、キスを許すのは5回目あたり。男性からみるとちょっとめんどうくさい

女にうつることでしょう。』
 ………なんか、覚えがあるかも……」


楽俊が爆笑を必死に押し殺している気配を感じながら、陽子は顔を赤らめた。

「だ、だってさ。ら、楽俊だって慎みを持てって言ってたじゃないか。

それに、こちらではどういうデートをするのか、私は知らないんだし……」

「うん、ごめんな。もっと早くこの本を借りていれば良かったんだが…」

楽俊はちらりと笑みを浮かべ、投げ捨てるように本を放り出す。

「…………………ら、楽俊?」

いつもと違う書籍に対する乱暴さに、陽子はぎょっと楽俊を見つめなおした。

「知らなかったんだ。『そして、牡牛座は体をもとめられるとぎりぎりまで相手をじらし、最後は

押し倒されるという、古典的パターンを好みます』
 …………なんてな」

「ら、ららららくしゅんっ!??」

ひゃあ、と陽子は体を竦ませた。

背中に柔らかな衝撃があって、頬に自分のものではないぬくもりが触れる。

思わず閉じてしまった目を開けたが、もはや灯は消されて何も見えない。

もっとも、灯があったところで楽俊の胸の中に抱き込まれた陽子が

何かを見ることは出来なかったけれど。

『はじめはひかえめな牡牛座ですが、ひとたび体の関係を持つと、欲望がたかまり、

朝に晩に何度でも彼をもとめるし、日中のデートをしているときもたえずしなだれ

かかります』
 ……ってさ。これも当たっているのかな? 楽しみだよな」

若い男特有の甘い低い声が陽子の耳を通り過ぎたが、狼狽の極地に至った陽子は

もはや返事も出来ず。

………………ただ、翡翠色の瞳をゆっくりと閉じたのだった。































 
了.
2003.4.8.

 
陽子攻の対になるということで、黒楽俊でした〜v
こんなの楽俊じゃねぇ!という声が聞こえますな。(^^;

『占星』は皐妃さんが漫画化してくださった最初の作品でした。
試してみた、というと言葉は悪いですけれども、お互いにおそるおそるといった感じで始まり、
この作品で「イケル!」と確信を抱くにいたった、思い出深い作品でした。
ラストの楽俊の表情では「イメージが違う」と4度も書きなおして頂き、
その度にお互いのイメージを探り合い、納得出来るところは受け止め、
出来ないところは何度も話し合い・・・・。その後の作業の根幹となる土台は、
この作品で形成されていたんだなぁ、と今振り返るとその重要さとシンクロの奇跡に
ただただ感動を深くするばかりです・・・・。





参考文献 『牡牛座の本』 門馬寛明 著 (宝島社)

ちなみに、乙女座O型と牡牛座A型の相性はばっちりでしたvv(^^)


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